ICO規制を見据え現在の金融商品取引法の規制を俯瞰する

はじめに:現状の規制の方向性
ICO規制の方向性に関するニュースを見かけました。金融商品取引法について書こうと思いつつ、本業やプライベートにかまけて思うようにアップデートできていませんでしたが、今回はちょっと興味深いニュースを見つけたので、思い切って書いてみました。
金融庁が暗号資産のICOに関して以下のような規制を検討しているようです(時事通信の記事はこちら)。
これによるとICOについての大枠以下の二つに分類した上で規制を課すとの観測が流れています。ちょっと表にしてみました。
トークンの種類 | 所管法令 | 個人投資家の扱い |
トークンに基づき配当を得られる「投資型」 | 金融商品取引法 | 個人投資家は不可 |
自社サービスの購入に使える「決済型」 | 資金決済法 | 個人投資家は可能。自主規制団体を通じて保護 |
当ブログでは、これまでトークンについては、証券型のトークンと商品型や代用通貨としてのUtilityトークンに分類できるのではないか、という議論をしてきました。個人的には、過去に試みたトークンの分類から大きく外れるものではないと思います(過去記事はこちら)。USではだいぶん前からhotな議論でしたので、ようやく日本でも正面から証券性について認識した上で議論をするようになったのかなという印象です。
とはいえ、実際の規制においては配当系にどこまでのトークンを含める予定なのか、規制は金商法の規制を課すとしてどの程度の規制になるのか、既存の金融商品取引法にどの程度影響があるのか、決済型にどこまでトークンが入るのか、また規制がどの程度適用されるのかなど、論点は数多くありますので、引き続き注視が必要ですね。
もう少し規制の姿が明確になった場合は、過去の記事で整理した日本法におけるトークンの分類図はもう一度見直したいと思います。
仮想通貨の用語ですが、その内、暗号資産に切り替えようかと思うのですが、資金決済法は仮想通貨交換業を含めどうしても仮想通貨の語を用いているので、これを避けるのも少しおかしなことになります。ですので、法改正でもされるまでは暗号資産と仮想通貨の使い分けが重要な意味を持つ局面以外ではあまりこだわらず使おうと思います。
暗号資産系ブログで金融商品取引法の業規制を紹介する意味
さて、ICOについては資金調達の一種として投資に近いタイプもあり、その観点からは金融商品取引法の2項有価証券の集団投資スキームによる投資スキームに近接しているものも多い印象を持っていましたし、金融庁を含めそのことを示唆する議論は昔からありました。
そこで、トークンの分類や細部は置いて、現行の金商法の規制を紹介する事で、仮想通貨交換業やICOの文脈に導入するとどうなるか考えてみましょうという訳です。もちろん今ある仕組みと全く同じ形にはなるはずもないと思っていますが、金商法における規制を確認することは配当型のトークンの規制を予測する上でも有益なトレーニング・シミュレーションになると思います。
完全にICO規制の形が定まる前の旬の内にあえて金融商品取引法と資金決済法で戯れてみましょう(以下の割と立ち入って書きましたが記載については法的なアドバイスではなく、公的機関その他の団体の立場を表明するものではないことは以前ご紹介したとおりです。)
さあ、金融商品取引法の沼へようこそ…
金融商品取引法での規制のフレームワーク
規制の3本柱
ではまず、現行の金融商品取引法における規制の枠組みを見てみましょう。
金融商品取引法は法律の条文も政省令も解説もやたら大部になるので慣れてないと、本の背表紙を見ただけでお腹いっぱい感があるかもしれません。
まずこの法律を理解したする上で、押さえて欲しいのが最終的な目的ですが、国民経済の健全な発展と投資家の保護を図ることがこの法律の目指す所です。
そして、金融商品取引法で重要な規制としては、大きく3つの規制の分野があります。以下が大きな3本の柱です。
⑴ 有価証券の発行者に開示をさせる企業内容等の開示規制
(2) 金融商品取引業として有価証券に関する行為を行うため登録等を要求し、行為について規制を課す業者規制
(3) 相場操縦やインサイダー規制などの防ぎ取引の公正を図る不公正取引規制
実はもう一本、金融商品取引所や協会の規制関連の柱があるのですが、あまり我々には関係ないのでとりあえず忘れましょう。
今回は(1)開示規制を横目に眺めつつ、(2)業規制に重点を置いて説明をしようと思います。
金融商品取引法での開示規制も業規制も範囲が広大です。開示規制も有価証券の種類により異なりますし、金融商品取引業と一口に言っても、金融商品取引法2条8項に定義がある金融商品取引業において認められている業務は種々あり、また、禁止されている行為、遵守すべき義務も少なくありません。
今回はその中でも暗号資産のICOにおける局面に関して一番関連性の高そうな2項有価証券の内、ファンドなどの集団投資スキーム持分についての発行者自らによる投資家に対する持分の取得勧誘行為、即ち自己募集に関する業規制に焦点を当てたいと思います。
まず、先に開示規制について軽く説明した後に、業規制について説明して行きたいと思います。
開示規制について(集団投資スキーム持分について)
いきなり本題からそれてますが、勧誘行為という言葉が出てきましたので、先に開示規制に寄り道しておきたいと思います。なぜなら勧誘行為というのは、募集と私募についての開示規制にも関連する重要なコンセプトだからです。
関連するところだけ概要を説明しますと、まず投資家に対する新たに発行する有価証券の取得の申し込みの勧誘行為は”募集”(public offering)と募集以外の”私募”(private placement)の二つに区別されます。因みに、既に発行済みの有価証券の取得勧誘で募集に相当するものは、”売出し”(secondary offering)といい、私募に相当するのは、”私売出し”と言います。
勧誘行為の定義の表現が分かりにくいですよね。言い換えますと、投資家が有価証券を買い付けたい、売り付けたいという申込みを業者に対してさせるべく業者が投資家を勧誘する、ということになります。
ガンジャンピング・ルール
投資家保護の観点から開示規制として重要なのは、募集や売出しに該当する場合は、発行登録の場合を除き、届出書を提出するまでは勧誘行為が禁止されるというガンジャンピング・ルールが課せられることです。陸上競技のスタートのピストルを思い出してもらうとガンジャンピングのイメージが持ちやすいかと思います。情報も出さないでフライングで勧誘してはだめです。禁止なのです。目論見書は取得時点までに交付すれば一応セーフということになっています。勧誘する前にきちんと情報を開示しなさい。これこそ投資家保護ですね。
すなわち、勧誘が多数の者を相手にする法律に定める”募集”に該当する場合には開示の義務が課せられており有価証券届出書を提出しなくてはなりません。有価証券届出書はEDINETという所で検索すると閲覧することができます(例えばこちら)。後は目論見書ですね。目論見書は売る時の前か同時に一般投資家向けに要らないと言われない限り交付しなくてはなりません。作成するとなるとそれなりに覚悟が要ります。
逆に勧誘が募集に該当しない、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘であるとして、私募に該当すればかかる開示の負担がありませんが、その代わりに開示の負担がなくて良いことを正当化するために投資家の資格や人数に制限を設け私募に該当するための要件が定められています。
集団投資スキームの場合の募集(・売出し)について
勧誘行為に当たるのか、当たるとして募集にあたるのか、私募にあたるのかは、1項の場合は特に複雑で局面によっては非常にクリティカルなのですが、これから説明するファンドなどの2項有価証券の場合は、取得者が500名以上の場合は募集又は売出しに該当するとのことになっています。
更に集団投資スキーム持分の募集の場合は集めた投資の5割超える割合を有価証券に投資する事業の場合は有価証券届出書が免除されないとの規定になっていて割とシンプルな規定になっています。まあ1億円未満で届出書不要な場合でも1000万円超であれば有価証券通知書の提出が必要だったり、有価証券報告書提出会社か否かと募集と売出しの組み合わせで届出書や通知書の提出の要否が異なったり実務的にはしっかり確認しないといけないところではあります。
ICOに置き換えると?
ICOの文脈に例えてみれば、white paper(WP)の記載事項について発行者の詳細を含め法的に詳細に決まっていて、WPの提出前に投資家に対してICOの勧誘行為をすることは禁止されるということになります。
そりゃ、あなた、すっかすかのWPやWPもろくにないようなICOが溢れているのを見ると、情報開示されることは投資家としては望ましい事だと思いませんか?あるいは、そもそも投資家からお金を集めるのであれば考えてみれば当たり前のことだとは思いませんか?募集に該当するようなICOについて、こういった規制を及ぼしていくことは大型の投資家も参入しやすくなりますので、業界の発展としては大切かなと思っています。
開示規制の寄り道はこの辺りにして、そろそろ業規制に戻りましょう。
さて業規制については二つの表を用意しました。まず以下の比較表をご覧下さい。
有価証券を販売したい業者に対する規制
あまり詳しくない方も全体像がイメージしやすいように資本金などの財産規制で各業についての要件を比較しています。参考までに仮想通貨交換業と共通する要件については緑でハイライトしてみました。なお、要件としては、この表の他に登録拒否事由に該当しないこと、特に経験知識がある人を揃える人的要件のあたりは実務的には重要と思われます。
業の種類 | 業者の例 | 扱う証券の例(一部) | 登録・ 届出 | 会社の 必要性 |
資本金 | 純資産要件 |
第1種
金融商品取引業 |
証券会社
|
株式、債権等の流動性高い有価証券
私設取引システム |
登録 | 株式会社
|
5000万円
(注) |
必要
+ 自己資本規制 主要株主規制 |
(仮想通貨交換業) | 仮想通貨取引所 | 仮想通貨 | 登録 | 株式会社 | 1000万円 | 必要 |
第2種
金融商品取引業 |
ファンド(自己募集) | みなし有価証券(ファンドの持分など集団投資スキーム持分や合同会社持分等) | 登録 | 不要 | 1000万円
個人:同額の営業保証金 |
不要 |
適格機関投資家等特例業務 | プロ向け
ファンド |
みなし有価証券(ファンドの持分など集団投資スキーム持分や合同会社持分等) | 事前届出 | 不要 | 不要 | 不要 |
注:有価証券の元引受けの幹事会社:30億円、それ以外の元引受け:5億円
仮想通貨交換業(資金決済法)
こうやってみると、財産的規制の観点から眺めますと、資金決済法上の仮想通貨交換業の規制って第1種と第2種の金融商品業の中間的でも第1種よりな位置付けの規制になっていることが見えますね。では以下金融商品取引業について見ていきましょう。
第1種金融商品取引業
典型的な業者としては証券会社をイメージしてください。
株券や社債のように伝統的、典型的なタイプの多い流動性の高い有価証券を取り扱います(金商法第2条に長い定義のリストがありますがその内第1項に列挙されているので1項有価証券と言います。)。
例えば会社が株式について公募増資するとなれば、実際のプロセスは証券会社にお願いする訳ですよね。誰でもできるという訳ではありません。例えば、証券会社ではない会社が代わりに募集してあげるよと投資家からお金を集めて逃げられたら、投資家は大変なことになってしまいます。会社も困りますが。流動性の高い有価証券については多くの人の手に渡り流通する可能性が高いこともありそのような業者が氾濫するのを許せばそもそも有価証券自体の信用が毀損されてしまいます。流動性が高い分よりリスクが高く、投資家保護の必要性が高いと考え、要件としては一番重い負担が課せられています。1項有価証券については第1種金融商品取引業の登録がないと業として取り扱うことができません。
第2種金融商品取引業
第2種金融商品取引業の業者の典型はファンドです。
取り扱うのは、法第2条第2項に定義されている有価証券(先程の第1項の後に第2項があり、そこで定義されています。)です。第2項の有価証券は伝統的で典型的な有価証券ではないものの、あえて有価証券とみなすとしていることから、2項有価証券と呼んだり、みなし有価証券と呼んだりします(2項も前段と後段とがありますが、ここでは後段各号の想定です)。典型的なのは、集団投資スキームと呼ばれるタイプのファンドです。
第2種金融商品取引業にも業が色々とありますが、この2項有価証券の自己募集(発行者が自ら投資家を取得勧誘する行為です。証券取引法時代では業規制の対象ではありませんでした)を行うためには、この第2種金融商品取引業の登録が必要となります。
開示規制の話は、先程紹介したとおりですので、割愛します。
余談ですが、この有価証券の定義というのは若干お国柄が出ています。USでのSecuritiesの定義は例示列挙をベースに文言としては昔からいい加減に定義してあり(ものの本では雑品入れ条項と表現されています)、判例などの基準を元に実質的に判断する感じで、まさにcommon lawという感じなのですが、日本ではCivil Lawの伝統を引き継いでか、特に証券取引法時代は1項を中心に個別限定列挙でひたすら変な有価証券が出る度に法改正して増やしてカバーしていく方式でした。今でも1項有価証券は1号から21号まであり、金融庁にてメンテナンスしているわけです。几帳面ですよね。
ただ、証券取引法から金融商品取引法に改正する際にはUSの証券法の影響も強くなったのか、principle baseと呼ばれる実質的な基準を導入し、幅広く網をかける方向を模索しています。その原因の一つは有価証券の定義の狭間を狙ったファンドなどの詐欺の多発でした。その対策として導入された実質的な定義を導入した特徴的なみなし有価証券が集団投資スキーム持分です。
日本法における戦後の米国法の影響は大きいものがありますね。でも、調べていくと米国一辺倒かというと意外とEUの規制の枠組みが意識されることも少なくなかったりして、この辺りのバランス感覚は興味深いなと思います。明治以来の日本の伝統なのかもしれませんね。
集団投資スキーム
証券取引法から金融商品取引法に変わるときに導入されたみなし有価証券が集団投資スキームの持分です。これは、USにおいて投資契約に該当するための判断基準を示したHowey事件判決において示された所謂Howey testを参考に定められた有価証券の一種で、金融商品取引法の改正時も立法担当者の解説や講演でもHowey基準が紹介されていた記憶です。因みに私は発音はカタカナ的にはハウイと呼んでます。
集団投資スキーム持分の根拠条文ですが、具体的には金商法第2条第2項第5号に定義があります(6号は外国法令における集団投資スキーム持分相当です。)。定義としては概要以下のようになっています。
組合…その他の権利のうち、当該権利を有する者(出資者)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)を充てて行う事業(出資対象事業」)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であつて、次のいずれにも該当しないもの…
これについて読みやすくするため要素に分解して分類してみましょう。
- 他者から金銭などの出資・拠出を集め、
- 当該金銭を用いて何らかの事業・投資を行い、
- その事業から生じる収益等を出資者に分配するような仕組みに関する権利のこと
- ただし適用除外あり(出資者全員が事業に関与する場合、配当が出資額を超えない場合、保険、農協、不動産特定共同事業など)
以上の要件を満たす場合、法的形式や事業の内容を問わず、包括的に金商法の規制対象である「有価証券」とみなすことになります。そして、ある仕組みが集団投資スキーム持分に該当する場合、その取得勧誘については第2種金融商品取引業が必要となる訳です。
まず、ポイントの1. 他者から金銭などの出資・拠出を集めるところでは、条文上”金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)”となっていますが、現在政令の指定はありません。よって、金銭だけが対象となっており仮想通貨は金銭ではないという整理において、原則として集団投資スキームの持分には該当しないということになっています(もちろん、このような場合でも金融庁が実質的に判断し潜脱的なスキームであるとして認定される余地は残ります。)。
Howey基準との比較
せっかくですので、金融庁が参考にした投資契約の判断基準に関するHowey(ハウイ)基準と比較してみましょうか(ここからしばらく暗号資産とはあまり関係しない完全に趣味の世界です。)。ハウイ事件(SEC v. W.J. Howey)判決の抜粋です(こちら)(本当は事件概要からゆっくり解説したいところですが。)。
“In other words, an investment contract for purposes of the Securities Act means a contract, transaction or scheme whereby a person invests his money in a common enterprise and is led to expect profits solely from the efforts of the promoter or a third party, it being immaterial whether the shares in the enterprise are evidenced by formal certificates or by nominal interests in the physical assets employed in the enterprise.” [1]
和訳をスキップして投資契約の定義の該当箇所をそのまま要素に分解して抜き出すと以下のようになります。
- a person invests his money
- in a common enterprise
- is led to expect profits
- solely from the efforts of the promoter or a third party,
日本語として通るように順に並びかえました(番号は便宜上つけました。)。
- 発起人または第三者の努力のみに依拠した
- 共同事業に対して
- 収益の期待を有して行われる
- 金銭による投資を行う
こうやってみると本質的にはよく集団投資スキームとHowey基準の投資契約の定義とよく似てますね。
ちょっと面白そうなので、更に脇道にそれますので余裕のある読者の方で結構ですが、少し要素を並び替えて一つ一つ文言レベルで比較してみましょうか。一度比較してみようと思っていました。
Howey Test
- 発起人または第三者の努力のみに依拠した
- 共同事業に対する投資
- 収益の期待を有して行われる
- 金銭による投資を行う
集団投資スキーム
- 出資者全員が事業に関与する場合は適用除外(他、配当が出資額を超えない場合、保険、農協、不動産特定共同事業など)
- 当該金銭を用いて何らかの事業・投資を実施
- その事業から生じる収益等を出資者に分配するような仕組みに関する権利
- 他者から金銭などの出資・拠出を集める
要素の立て方が視点が投資契約ということで投資家サイドからなのか(Howey test)、金融商品取引法の業規制ということで発行者サイドからなのか(集団投資スキーム)で書き振りが若干違いますが、よく似ていますね。
Howey基準1は、そもそもお金を出して自分で事業する場合は投資契約とは言い難いですよね、という当たり前の話が書いてあります。集団投資スキームの場合、適用除外のところで出資者全員が事業に関わる場合をあげることで、裏側から規定しているのが分かるかと思います。
Howey基準2の共同事業性は、Howey事件判決ではその意味するところが説明されていません。判例や論文も色々あるようです少し調べてたのですが沼に入りそうだったので深入りしないでさらっと流すと、(a) 投資家間で出資をプールして事業を行うことを持って共同している事業とみるのか(水平的な共同性)、(b) 発起人と投資家との間で利益の配分について共同性があれば良いのか(垂直的な共同性)というあたりのアプローチがあるようです。集団投資スキームでは特に要件としては反映されていないように思います(実は”集団”投資スキームという名称に反映されていたのかもと今金融庁の思いに気が付きました。心憎い。笑。)。
Howey基準3で収益の期待となっている部分は、集団投資スキームでは収益を分配する仕組みという表現になっています。Howey testの表現の収益の”期待”の方がやや広そうなニュアンスを感じますよね。個人的な印象としては、かかる表現は裁判官だから許されるのであって、金融庁で立法担当者がそんな用語を立法に使おうとそんな主観的な基準では判断できないだろうと批判が殺到して炎上することは火を見るより明らかです(笑)。ということで表現は若干異なりますが、実際に適用事例をみていかないと何とも言えませんが、個人的には実質的にはそれほど大きくは違わないのかなと想像します。
Howey基準4の金銭による投資の部分は、集団投資スキームの”金銭など”となっていて同じです。ただ、集団投資スキームの場合は”など”と追加している部分については将来の万が一の事態に備え、拡張するスロットを設けてあるのが分かるかと思います。(まあ、”金銭”自体の解釈で広げるという裏技もあるのかもしれませんが。)
このように見てくると、第三者の投資家からお金を集めて事業に投資してその収益を投資家に配当するというあたりが投資契約・集団投資スキームの本質的だというのが、比べてみるとよく分かるのではないかと思います。Howey基準との比較は以上です。
なお出資を受けた資金を事業ではなく、有価証券に投資して運用する場合は、別途、第2種金融商品取引業に加えて投資運用業の登録を検討することになりますが、それは後述します。
適格機関投資家等特例業務
さて、業規制に戻りましょう。最後に紹介するのは適格機関投資家等特例業務という類型です。
例えば海外のファンドが日本の機関投資家を勧誘したいと思って、日本の規制を調べます。第2種金融商品取引業を登録しないと勧誘はできない訳です。日本の投資家を呼んでもいいけど、放っておいても投資家殺到するから必須でもないというような海外の優良ファンドはどう考えるかというと、日本の規制は負担ありすぎだからパスしようとなってしまいます。その結果、日本の投資家は機関投資家であっても参加できないことになりかねません。
そもそも規制を厳しくした背景は投資家の保護でした。そのため、プロの投資家であれば十分経験や知識もあるので保護の必要性を下げるという議論をすることができます。また、少人数の場合も一定の制約の下ではお互いに顔が見えており、事業者に色々と確認することができるでしょう(ただここはそうも言えないことが分かりセミプロに限定しましたが)。という訳でそのようなプロ投資家、すなわち適格機関投資家のみに対して発行者が自己募集し、運用する場合に第2種や運用業の登録までは必要とせず届出のみとするカテゴリーを設けられています。それが適格機関投資家等特例業務です。
2016年から施行されている改正もあって要件が複雑化していますので概略にとどめますが、大枠は以下のようになっています。(あくまで概略ですのでよろしくお願いします。)
投資家の中に、最低1名以上の適格機関投資家が存在すること、かつ
②アマ投資家要件
適格機関投資家以外の一定の一般投資家が49名以下であること
③不適格要件
法63条1項1号イ、ロ、ハのいずれにも投資家が該当しないこと
同7項に特例業務を行うものが該当しないこと
①と②について補足ですが、もちろん全てプロ投資家のみでも構わないです。
はい。概略とはいえこのあたりは暗号資産などのトークンの取得勧誘のところでも関連してくる可能性が高いとみていますので、一つ一つ見て行きましょう。
①適格機関投資家ってなんでしょう?
プロ投資家、すなわち適格機関投資家とは、有価証券に対する投資に係る専門的知識及び経験を有する者とされています。具体的には定義府令10条に列挙されています(こういうのは全部すっきりリストしたり、要件を出したくなる誘惑に駆られるのですが、多分読みにくくなるかなと思い我慢しています。)。ざっくりいうと投資運用する金融商品取引業者、銀行などの金融機関、保険会社、ベンチャーキャピタル、10億円以上の有価証券の口座残高がある法人など第1号から第27号まで挙げられています。
あ、もちろん、個人の方もプロの適格機関投資家になれますよ!
でも個人の場合であっても、10億円の有価証券残高を保有していることと証券口座1年間保持が条件となります。億り人でもダメで、自由億な人ではないとプロ投資家としてはお呼びではないことになります。
②一定の一般投資家って何でしょうか?
昔は一般投資家といえば一般投資家で無限定だったのですが、このプロ投資家を見せかけ的に少額入れ、素人を少人数の一般投資家枠に入れて嵌め込みする詐欺が相次いだ事もあり、最近改正されて制限を受けることになりました(金融商品取引法施行令17条の12金融商品取引業に関する内閣府令233条の2)。改正法の解説によりますと基本的には
(a) 投資判断能力を有する一定の投資家と
(b) ファンド運営者と密接関連する者
に限定されることになっています。
法人ですと全ては列挙しませんが金融商品取引業者の他、上場企業、資本金5000万円以上の法人、また、投資性資産が1億円以上の法人などを始めとして列挙されております。
個人投資家の場合は、以下のようになっていて、
保有資産が1億円以上で口座開設から一年経過する人が対象になっています(金融商品取引法施行令17条の12第1項第14号、金融商品取引業に関する内閣府令233条の2第3項)
個人で言うと、1億円以上あればアマ投資家でして、1億円未満の一般の投資家はアマ投資家にもなれません。その意味で個人投資家は原則禁止という表現に繋がる訳です。
ただベンチャー・ファンドからの批判があったためなのか、ベンチャーファンドについては特例で、一定の体制整備を前提に、一定の者を加えることが認められています(金融商品取引法施行令17条の12第2項、金融商品取引業等に関する内閣府令233条の4)。ベンチャーキャピタルに関して、上場企業の役員や公認会計士、弁護士、税理士等一定の者についてはUSやEUの規制を参考に枠が広げられています。
③法63条1項1号イ、ロ、ハってなんでしょう?
資産流動化法に基づくTMKに非プロが1人でも出資している場合のTMKを相手に出資を勧誘すると特例業務はアウトということになります。また、1人でも非プロが出資しているTKの営業者に対して勧誘するとアウトということになります。後はこれに類似する場合として内閣府令に定める場合もあります(金融商品取引業等に関する内閣府令235条:LPSやLLPの場合など…。)。要するに適格機関投資家に限定している投資家枠には決して間接的にとはいえ一般投資家を入れては駄目よということですね。
④法63条7項?
反社会的勢力や登録取消処分を受けてから一定期間の者等に対しては認めないなどの業者側の欠格事由を定めています。詐欺防止の一環ですね。他の業者の不適格事由に共通するものがほとんどで、今までそういう輩が流れ込んできた穴を金融庁が塞ぐという構図が見えますね。
転売制限
こちらはおまけですが、このスキームで入る場合は投資の際に転売制限が課せられます(金融商品取引取引法施行令15条の10の6. 適格機関投資家は、適格機関投資家に対してしか転売できないという制限が課せられています。まあやむを得ないですね。そしてこの転売制限(selling restriction)の文言を契約書に埋め込んで行きます。ファンドによってはこれを各国版のselling restrictionの文言を入れたり別紙にしたりします。これで契約書がまた長くなる訳です。)。
行為規制
あとは、業者として販売や勧誘を行う際に契約締結前の書面交付義務を始めとして一定の行為規制が定められ、順守を求められるようになりました。まあ、この適格機関投資家等特例業務のスキームでやりたい放題やった業者の成果ですかね。
配当型の仮想通貨に適用された場合
おそらく配当型の仮想通貨の募集についてはファンドと同視して第2種金融商品取引業が課されることになるんでしょうね。条文としては、集団投資スキーム持分の出資者から集める”金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)”となっている部分について資金決済法上の仮想通貨を政令で指定するのが一番簡単なように思います。そうすると配当・利子などが配られるトークンは集団投資スキーム持分の定義に網羅されることになりますね。マスターノードを立てるようなトークンについてのICOというのは、配当の仕組み次第では有価証券に該当する可能性が出てくるように思います。
そして、プロ投資家に対して適格機関投資家等特例業務を適用する余地を残すのが、そのまま適用するパターンだと思います。すなわち有価証券残高10億円以上でプロ投資家で、1億円以上でアマ投資家枠で、それ以下の個人は参加禁止です。
億り人ではない一般の投資家の方はそのように覚悟しておいた方が良いと思います。
ICOのいくつかにちょっかいを出したことのある者としては一部のICOについて扉が閉まる感はありますが、ニュースで触れられていた個人投資家禁止とは以上のような規制を課すと思っておいて基本的に間違いないと思います。この規制が課されて以降は、USの一般の投資家と話が合いそうですね笑。
話は逸れますが、個人的にはベンチャーキャピタルの特例の実際のところの使い勝手がどうなのか、業界の人に聞いてみたいです。どうなんでしょうね。この辺りの特例はICOの所でも適用する場面があるかもしれませんね。
この業規制をそのまま適用すると配当型のICOは冷え込むかなと思いましたが、そもそも冷え込んでますよね。冷めた見方をすると、詐欺的なICOが多いのは否定できない一方で、優良な案件はVCが入ってきて先に大所を押さえていたり、そもそもICOを実施しないトークンも増えてきている現状もありますので、仮想通貨業界も他の金融商品のような流れになってきて、それに規制がついてきているだけなのかもしれません。
ここでいう1億円や10億円の資産要件の基準は、リスクを取って差し支えなく投資について習熟していることを測る客観的基準で設けられていると理解しています。
USでも既にご存知の通りICOの多くについて適格機関投資家に相当するaccredited investorしか参加できません。しかしながら、一方でUSでは、このaccredited investorの基準について仮想通貨の場合に一定の教育などを条件に要件を緩和する方策が議論されているようです(最近どうなったかまた追っかけないと…)。ここは金額基準やその他の基準を設けて導入する際には個人的には十分慎重に議論して欲しいように思います。
元々日本の規制はUSの規制を参考にして意識した規制の筈なので、USのSECの議論の流れ次第では、この辺りの要件を多少調整するのは落とし所としてはありえない想定ではないかと想像しますが、でもこの前、適格機関投資家に関して個人投資家の参加のハードルを上げたばかりですからね…。
(顧客からお金を集めて)有価証券に投資したい側の業規制
業の種類 | 業者の例 | 扱う証券の例(一部) | 登録・ 届出 | 会社の 必要性 |
資本金+主要株主規制 |
投資運用業 | 投資ファンド | 有価証券への投資 | 登録 | 不要 | 5000万円
+ 主要株主規制(自己資本規制はなし) |
投資助言・代理業 | 投資アドバイザー | 有価証券への投資 | 登録 | 不要 | 不要
ただし営業保証金規制:500万円 |
適格機関投資家等特例業務 | プロ向けファンド | みなし有価証券(ファンドの持分など集団投資スキーム持分や合同会社持分等) | 事前届出 | 不要 | 不要 |
サロン系 | 仮装通貨投資やBTCFXのアドバイザー | 仮想通貨 | なし | なし | なし |
投資運用業
例えば第2種金融商品取引業により募集して投資家から集めた資金をファンドとして別の有価証券に投資して運用する場合、別途、投資運用業の登録が必要となります。特に投資運用業は他人のお金を預かるからこそ重い規制が課せられる訳です。もちろん事業に投資して事業収益を上げるのみの場合には該当しません。
因みに、海外の例を出したので、申し添えておきますと、外国集団投資スキームに係る自己運用のうち、出資者のうち本邦居住者が10人未満の適格機関投資家又は適格機関投資家等特例業務の届出を行った者であり、かつ、本邦居住者による直接出資額が総出資額の3分の1以下であるものについては、例外的に投資運用業の登録や適格機関投資家等特例業務の届出を出す必要がありません。(他にもいくつか例外はありますがここでは割愛します。)
投資助言・代理業
預かって投資運用する場合ではなく、有価証券や金融商品の価値等の分析について報酬を取って行う助言や代理の場合についても、投資助言・代理業の登録が必要となります。
仮想通貨に対する投資運用や投資助言については、何も規制がされていないことはみなさんご存知の通りです。
一部サロンに対する規制について
ここまで比較した場合は書かない訳にはいかないでしょうね。
暗号資産のトークンの一部について金融商品や有価証券であると整理した場合、お金を取ってかかる金融商品や有価証券の価値等の分析に基づき投資のアドバイスすることは方法のいかんを問わず投資助言・代理業に該当します。
例えば、外国為替のFXで自動取引をするソフトウエアを会員制などでお金を取って提供する場合でも財務局の指導で投資助言・代理業に該当するとされています。
お金とって仮想通貨のbotを販売する行為や巷でサロンと呼ばれているお金を取って投資に関する助言を行う形態は、他の金融商品とのバランスを考えると投資助言業に該当するとして投資助言業の対象として登録させて規制に服することになるのも一つの将来の姿かなと思います。ただ、仮に決済型のトークンについては投資ではない、という整理をすると、その部分については結局何もされない可能性もそれなりにある可能性はあるとは思いますが。そのあたりはどうなるでしょうね。
まとめ:規制と健全な市場の発達のバランスについて
少人数私募やプロ私募ではなく、大規模に一般投資家に対して募集するのであれば、WPについても目論見書のように一定の情報開示を旨とすることは投資家の保護になることは間違いありません。目論見書や有価証券届出書が負担の重さからベンチャーのプロジェクトからは敵視されがちですが(物凄い額と時間と労力がかかりますので、負担の重さ故に敬遠せざるを得ない実情や気持ちはわかりますが)、一方で今回、初めて投資側の立場に立って見て多くの詐欺のトークンやらが溢れているのを目の当たりすると、これまでの有価証券の歴史の中で積み上げてきた情報開示の重要性とそれを刑事責任を持って担保する大事さを痛感したりもしました。
詐欺的なプロジェクトの存在や誠実ではない情報開示の苦労と、業者に騙されたみたいな話は、昔からある話であって、仮想通貨が今回初めてでは決してないのですよね。投資家として、詐欺で溢れる情報が当たり前でそれを排除するのに労力を使うのが本質的な仕事かと言われると、その能力自体は非常に大事だとはいえ、投資の是非の以前の問題としてもう少しフィルターにかけてくれなと落ち落ち投資もしてられない、と言いたくなりますよね。スキャムな業者は排除しましょうよと。だからこそ業規制を含め規制の枠組みが必要という話になる訳です。
逆説的には、金融商品取引法による規制も加わり、こういう業規制がしっかり入ってくれば、きちん登録している、あるいは届出している業者であれば、法令遵守体制がしっかりしているので大丈夫です、と大きな機関投資家も安心して投資を検討する事ができますし、社内でも通す事ができる訳です。いわんや他人のお金を預かっていて例えば間違えて反社会的勢力に出資していました、ということは許されない訳です。その意味でも業規制を確立していって仮想通貨、暗号資産の業界全体の信用を上げていくのは大事なことかなと思います。同じ投資できるとしたら、届出書もがっつり出している正統派なプロジェクトが出てきたら、とうとう正統派の大型プロジェクトが出てきたとなれば、ICOの後に取引所に出てきたらトークンメトリクス次第では投資したくなるじゃないですか。そういうことなんだと思います。
一方、ビジネス側としてはスピード感を持ってビジネスを進めたいのに、なぜ急に大量のアドバイザーに囲まれて当たり前のことや重箱のすみをつつくような質問に対応して相手をしなければならないのか、という話になりがちかと想像します。また、あれこれ心配してできた規制によって当局が意図している以上に一部の技術開発の萎縮を生んだりしているとすると、ビジネスの発展自体が阻害されることもある訳で勿体無いなとも思っています。
この開示や業規制の負担によるビジネスのスピードの制約の問題と投資家に対する十分な情報開示のバランスは、簡単な解決策があると言っているわけではなく、ベストのバランスを求めていく永遠の課題の一つかもしれないとも思っています。
個人的には金商法の枠組みをのイメージを少しでも共有できればと思っています。今後規制の方向性がこれと比べてどうなっていくのかを個人的には興味深く見ていきたいと思っています。
(2018/12/5 追記: 因み第8回仮想通貨交換業に関する研究会では、ICO規制について開示規制、業規制や不公正取引規制などが幅広く論点とされた模様です。資料はこちら。上に書いたような第2種金融商品取引業になるのか全く別の形になるのか、議論の方向性が固まりましたらまた後日記事にしたいと思います。)